学習成果を上げる指導者と子どもの関係
学習指導において、指導者(親、先生、講師)と子どもの関係は、学習成果に大きく影響します。子どもとの関係が適切であるかを考える上で役立つ、2つの視点について解説します。
指導者と子どもの2つの関係
課題解決関係と愛着関係
指導者と子どもの関係を「課題解決関係」と「愛着関係」という2つの視点で考えます。
① 課題解決関係
課題解決関係とは、「学習指導を行う指導者」と「学習指導を受ける子ども」というように立場の違いがはっきりしていて、お互いを「共通の課題を解決するための存在」と認識している関係のことです。先生と生徒、師匠と弟子、のような上下関係をイメージしてください。
志望校に合格するために、中学生が進学塾の講師に受験指導を受ける場合
講師(指導者)は生徒(子ども)を合格させるために、必要な学力をつけさせます。そのためには、自分の指導に子どもを従わせる立場であることを自覚しています。
生徒(子ども)は合格するために、講師(指導者)からの指導をより効果的なものにしようとします。そのためには、講師の指導を信頼し、それに従う立場であることを自覚しています。
② 愛着関係
愛着関係とは、指導者と子どもが対等な立場として、互いに頼り合い、好意をもち合い、理解し合う関係のことです。家族や仲間、友達のような関係をイメージしてください。
友人関係で悩み事のある中学生が学校の先生に相談する場合
先生(指導者)は生徒(子ども)が素直に悩み事を打ち明けてくれるような、生徒との心の距離が近い対等な存在であろうとし、実際にそうなっています。
生徒(子ども)は悩みを聞いてもらいたいと思えるほどに、先生(指導者)の事を、仲の良い(好意をもっている)自分の理解者であると認識しています。
課題解決関係と愛着関係の4つの分類
課題解決関係と愛着関係について下の図のようにA~Dの状態に分類しました。指導者と子どもの関係がどの状態なのかを知ることで、より適切な指導環境をつくるために必要なことが見えてくる場合があります。
Aの状態
2つの関係がともに強固であるという理想的な状態です。子どもにとっては最も学習成果が出やすい関係であり、指導者にとっては目指すべき状態といえます。
Bの状態
課題解決関係は強いが、愛着関係が弱い状態です。指導者が先生や講師のように、子どもにとって他人の大人である場合、このような状態になることが多いです。指導者の教科指導の技術力や経験値は高いので、学習成果は出やすいのですが、特に年齢の低い児童の場合、指導関係を維持していくことが難しくなります。
Cの状態
課題解決関係は弱いが、愛着関係が強い状態です。多くの親子関係はこの状態になっており、このままの関係では、そこから学習成果を期待することはできません。また、子どもと年齢の近い大学生の家庭教師など、子どもと友達関係になってしまい、課題解決関係が築けなくなってしまう場合もこの状態といえます。
Dの状態
課題解決関係、愛着関係がともに弱い状態です。経験の浅い指導者(学生アルバイト講師や家庭教師など)に任せたり、すぐに感情的(喧嘩)になってしまうような親子関係である場合、このような状態になります。子どもの学習にとって良い関係とはいえず、可能な限りさけるべき状態です。
学習成果を上げる関係をつくる
子どもの学習成果を上げやすいのは、課題解決関係と愛着関係がともに強く、バランスがとれている状態(上の図のAの状態)であることは間違いありません。しかしその状態がはじめから用意されている環境はまずありません。つくり出す必要があります。
課題解決関係と愛着関係を十分に活用する環境をつくり出す最も現実な方法は、役割分担をし、連携することです。
たとえば、教科指導は確かな技術のある塾の講師などに任せ、子どもの精神的なサポートは家庭で親が担当する、といったものです。
学習塾だけ、家庭だけ、のように、ひとつの環境だけで学習指導を行う場合、課題解決関係と愛着関係のどちらも強い状態をつくることは難しくなります。
子どもの勉強を塾に任せきりにしていたら、いつの間にか授業についていけなくなり、勉強が嫌になってやめてしまった。よくあるケースです。
学習状態を良くするために学習塾に行かせているのに、良くなるどころか悪化させてしまい、さらには勉強を嫌にさせてしまっては、元も子もありません。
しかし、この場合、問題は学習塾の指導だけにあるとは限りません。おそらく、講師の指導通りに努力していけば学習状態は良くなっていたはずなのです。しかし、子どもがどこかでつまづいてしまい、個人的なサポートを必要としていた時に、それが受けられるような体制がなかったため、子どもは自分では対処できなくなってしまったのです。
もし、子どもがいつでも助けを求めることができ、適切なサポートが受けられる存在、すなわち愛着関係の強い存在があったならば、たとえば親が塾の講師と連携するなどして、子どもの抱える問題に対処できていたはずです。
学習塾と家庭でそれぞれ課題解決関係と愛着関係を強化し、連携して子どもを指導していくのは、学習成果を上げやすい状態の一例だといえます。